空飛ぶ餃子

Aro/Aceのオタクです。映画、漫画の感想・考察(ネタバレ全開)

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観た(ネタバレあり)

夕方のアニメ鬼太郎の再放送を楽しみにしていた子供だった。漫画も好きだし、水木しげるの妖怪図鑑をずっと眺めていた。

 

もうすでに素晴らしい作品がたくさんあるわけで、もう見てるし、境港にも行ったし、今わざわざ鬼太郎の映画をやるからには半端な映画じゃ許さんぞ……みたいな気持ちで観に行った。

 

結論から言うと半端な映画ではなかった。近年稀にみる、社会批判精神が強く出た映画であったと思う。

 

社会批判の話もしたいが、ひとまず鬼太郎オタクとしての感想を述べたい。

ポスターからも予想はついてはいたものの、目玉になる前の目玉の親父と、鬼太郎を取り上げた(?)水木とのバディものであったことが何だか新鮮に感じた。

そのポスターであるが、何と父さんの姿が普通に描かれているではないか。しかも何かシュッとしたイケメンである。漫画では目玉になる前の親父はほとんどガイコツかゾンビかみたいな状態で、目玉がボトッと落ちるところは記憶にあるが、元気なときの姿は描かれていなかったように思う。母さんもほぼ死体みたいな感じじゃなかったか。

父さんがシュッとしたイケメンなので、定番の入浴シーンも茶碗じゃないからセクシーみが出てしまう、アクションシーンもめちゃくちゃスタイリッシュ、リモコン下駄めちゃくちゃ格好いい、でもこんなの僕の知ってる父さんじゃない!!などと混乱したものの、ちゃんと目の中で目を閉じるところに水木しげるみがあり、そこはちょっと安心した。

後で知ったが、新しいアニメでイケメン父さんは既出だったようで、皆さんそんなに驚いてなかったっぽいですね。

イケメンというと、水木もえらいシュッとしていて、美少女を誘惑したり、脱いだ浴衣のカットが入るなどの妙に艶かしい描写があったり、野心的であったりと、原作者と同じ名前なのにまったくイメージがかぶらない。これがもし印象がかぶるキャラクター造形だとシケるだろうから、この「水木」は正解だったと思われる。

 

それにしても、水木が血液銀行の勤め人というのは名案だと思う。

血液銀行など、若い人はあまり知らないのではないだろうか。とはいえ私も当時を知っているわけではなく、職業柄知識を与えられただけなのだが、この文言が登場した時点で、これはかなり大人向けだなあと思った。

血液銀行もそうだが、めっちゃ元気になる薬物と言うと、実際に戦後すぐくらいまでは市販されていたヒロポンを想起させる。覚醒剤がその辺で合法的に手に入るものだったことも、あまり知られてないのではなかろうか。

水木が、こういう明らかにやばいものを、当初はこの国の将来にとって良いものだと認識していたということが、この先の展開に生きていたと思う。

水木が軍隊上がりというのも、『総員玉砕せよ!』を思い出してまた読みたくなったところである。

 

この映画の素晴らしいところは、映像としての美しさ、面白さだけでなく、搾取を続けるためのシステムのおぞましさ、それを破壊する様を絵で描くという、シンプルなだけに強い社会批判アニメであるところなのである。

搾取の結果に築かれたものを「つまらない」というのは、水木しげるがずっと軍隊的なものをバカにしてきたことと繋がっていると感じた。『総員玉砕せよ!』に出てきたような上官の顔が、一族の長女に重なるところなどは、まさにそれを絵にした表現であるなあと感じた。ちゃんとアニメだからこそできる社会批判になっているのである。素晴らしかった。

 

ただ一点、これは私の願望だが、子どもがひどい暴力を受けたあげく無残に死ぬのを見るのはかなりつらいので、その点がこの映画を手放しで面白かったと言えない理由である。少女が親族から性暴力を受け、性を管理され、自分に生きる価値がないと感じた末に怨霊と一体化してしまうという展開、少年が幼い頃から親族に管理され、何の自由もなく、果ては身体自体を乗っ取られて死ぬというのは、批判的な文脈であれ、良い表現であるとは思わない。

あと母親がお腹の子どもを守るために生き延び、守り抜いた末に死ぬという描写も苦手だ。

 

とは言え、近年稀にみる骨のある作品であった。あとこんなに鬼太郎読み返したくなる映画他にないと思う。全巻セット買うかな。